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2018.03.30
話題の「ゼロエネ住宅」に泊まってみた
太陽光発電の創エネと断熱による省エネで住宅のエネルギー収支を実質ゼロにする「ゼロエネルギーハウス(ZEH)」。家庭部門の二酸化炭素(CO2)排出量の削減を目指して政府主導で導入が進むなか、記者は環境省の体験宿泊事業を利用し、販売首位の積水ハウスのZEHに泊まってみた。
2月13日午後5時。記者が入室したのは、東京・葛飾の3階建ての集合住宅の1室。賃貸住宅でのZEH化を見据え、積水ハウスが3階部分の2LDKをモデルルームとして整備した。
「窓にはペアガラスを使い、冷気を通しにくくしています」。入室すると宿泊事業の担当者はこう説明した。外気は6度だったが室内は暖房無しで15度だった。
部屋には4.6キロワット分の太陽光発電パネルがひも付く。家庭用エネルギー管理システム(HEMS)の目盛りを読むと、快晴だったのでこの日は計17~18キロワット時を発電したもよう。これより少ない電気量で過ごせば「実質ゼロ」のエネルギーで生活したことになる。
担当者が退出すると早速、暖房とテレビをつけた。持ち込んだ豚肉をIHヒーターで焼き、電子レンジで冷凍食品も解凍して夕飯を食べた。食後は窓際のソファに座り、テレビを見続けた。外気は3度を切ったが、窓の存在を忘れるほどの断熱性能だった。
午後11時ごろに入浴。一人暮らしの記者は普段はシャワーだが、せっかくなので浴槽を利用する。電気給湯器でお湯をはり、自宅には無い「追いだき」機能も物珍しさから使ってしまった。
入浴後、暖房を入れていなかった寝室に移動した時も冷気を感じない。断熱性が高く、暖かい空気が2LDKに均等に行き渡っているようだ。午前1時前に就寝、室温は19.5度だった。
朝7時に起きると室内の気温計は16度を示している。ベランダに出ると肌を刺すような寒さで、外気は1度だった。
午前9時に退出する前にHEMSで電気の消費量を確認。寝ているはずの夜間に約8キロワット時分も消費していた。ふんだんに使ったお湯を補充するため電気給湯器が夜に稼働していたのだ。
結局、電気の消費量は19キロワット時を超し、1日のエネルギー収支では足が出た。だが、ZEHは年間の収支で実質ゼロと算出するため、春や秋に消費を抑えられることを考えれば許容範囲と言えそうだ。1日の滞在では電気代の優位性は感じなかったが、それ以上に断熱性能が快適だった。
積水ハウスは2月、金沢市で全戸ZEHとなる同社初の賃貸住宅を建てた。家賃は数千円高いものの、断熱性能のほか太陽光での余剰発電分が借り主に還元される仕組みで利点を訴求する。「まずは省エネ賃貸のマーケットを作る」(同社担当者)ことから展開する。
日本のCO2排出の総量のうち家庭部門は16%を占め、国際協定のパリ条約を守るためにもZEH普及は欠かせない。ただ正直なところ、CO2削減目標よりもZEHの快適さや経済合理性が消費者に浸透することで、急速に広まる可能性があるように感じた。
(企業報道部 大平祐嗣)
[日経産業新聞 3月29日付]
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2018.03.29
エネルギー自由化の認知、電気92.3%・ガス77.4%、電通調べ
(株)電通のエネルギー関連のグループ横断組織、チーム「DEMS(ディームス)」は、第6回「エネルギー自由化に関する生活者意識調査」を行った。調査時期は2017年12月22日~12月27日。対象エリアは9電力会社管内(沖縄電力管内を除く)。対象者は全国20~69歳の男女5,600名。調査方法はインターネット。
それによると、電力自由化について「内容まで知っている」は25.1%(前回24.6%)、「内容はわからないが、自由化されたことは確かに知っている」51.7%(同52.3%)、「見聞きしたことがある」15.4%(同14.7%)を合わせると、全体の92.3%(同91.6%)と電力自由化の存在が広く知れわたり、認知は高止まりの状態であることが分かった。
ガス自由化については、「内容まで知っている」15.2%(前回16.1%)、「内容はわからないが、自由化されたことは確かに知っている」39.7%(同41.7%)、「見聞きしたことがある」22.5%(同22.3%)を合わせると全体の77.4%(同80.1%)が認知されており、ガス自由化の認知については未だ拡大の余地が残っている。
電力自由化で「電気の購入先を変更した人」は11.4%(前回9.8%)、「電気の料金プランを変えた人」は7.9%(同6.9%)と、「変更者」は全体の19.3%となり、前回の16.7%より2.6ポイント増加。管内別では、電気の購入先変更は東京電力管内19.0%、関西電力管内17.6%、北海道電力管内15.0%、電気の料金プラン変更は中国電力管内17.2%、中部電力管内15.0%、四国電力管内12.4%の順。
ガス自由化で「ガスの購入先を変更した人」は7.8%と、前回より3.1ポイント増加。「比較検討したが変更していない」は23.0%と、前回より1.7ポイント増加。
購入先を変更しておらず、かつ変更の意向がない人の理由は、「変更の手続きが面倒 大変そう」(電力27.6%、ガス23.0%)のほか、今まで通り慣れている会社の方がよい」(電力27.1%、ガス25.0%)、「現在と比べて安くならない」(電力24.9%、ガス22.1%)、「メリットがよくわからない」(電力24.8%、ガス22.1%)、「変更することに不安」(電力23.1%、ガス21.2%)、「変更することで損をしたくない」(電力22.9%、ガス21.5%)などが挙がっている。
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2018.03.28
原発新増設は明示せず 経産省エネ調査会方向性案
経済産業省は26日、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)基本政策分科会を開き、平成42年度に想定する電源構成の実現へ向けた対応の方向性案を示した。温暖化対策などの観点から火力発電の高効率化や、太陽光など再生可能エネルギー普及への環境を整備。原子力発電は「重要電源」として再稼働を進める方針だが、焦点の新増設は明示しなかった。
経産省は2050(平成62)年に向けた対応を議論する別の有識者会議の意見も盛り込み、今夏にまとめるエネルギー基本計画の改定案に反映する。
方向性案は原子力や再エネなど4分野の対策を整理した。原子力は平成42年度に全電源に占める割合「20~22%程度」を実現するよう、安全性を向上しつつ再稼働を進める。再稼働は現状7基だが、30基程度が必要になる見込みだ。
一方、再エネは国際的に割高な発電費用の低減や、送電線への接続を制限するルールの見直しを図る。東日本大震災前に約10%だった比率を「22~24%程度」まで拡大し、「主力電源」と位置付ける。また、燃料電池車(FCV)などで活用が期待される水素は再エネと並ぶ新エネルギーとして明記する見通しだ。
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2018.03.27
15時間の対決!省エネ住宅と築20年住宅はどっちが快適?
2月5日、今日も寒い。筆者こと、ライターのワタナベは、省エネ住宅の快適性をチェックするため、環境省が実施した「COOL CHOICE ZEH体験宿泊事業」に協力しているモデルハウスに1泊することになった。
泊まるのは相羽建設(東京都東村山市)のモデルハウス「つむじ」だ。2015年に建築家の伊礼智氏が設計し、相羽建設が施工した。ZEH基準を満たす断熱性能を持つ建物だ。
前回は宿泊前に、同モデルハウスの性能などについて話を聞いた(「からくり仕掛けの断熱窓で快適性を生む工夫」を参照)。そして再び、モデルハウスのある東京都東村山市にやって来たというわけだ。
「ZEH」とは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略称で、省エネ住宅の一種だ。建物の断熱化や設備の省エネ化で消費するエネルギーを抑えるだけでなく、太陽光発電システムでエネルギーをつくり出す、いわゆる創エネを組み合わせることで、消費エネルギーを年間で差引き正味ゼロにする。
この省エネ住宅で私に課せられたミッションは、(1)室温・外気温を記録する、(2)決められたスケジュールに従い食事や入浴をする、(3)快適性を確認する、という3点。省エネ住宅と築20年の木造住宅を比較するために、この日は、日経 xTECHのYデスクも自宅(築20年の木造住宅)に待機し、こちらと同じように室温を記録することになっている。もちろん、Yデスクも同じタイミングで夕食や入浴をする。
4カ所の温度を測定
温度測定の機器を設置する場所は、リビングと寝室、洗面所、玄関の外の4カ所。省エネ住宅と築20年住宅とも同じ場所に置いて比較することにした。
外気温とリビングの室温については、自動的に温度の変化を記録する機器(データロガー)を用いた。洗面所と寝室には温度・湿度計を置いた。この2カ所については自動的に記録する機能がないので、人力で30分ごとに数値をメモして記録することにした。
Yデスク:すみません、予算の都合で…。文明の利器は2個ずつしか用意できなかったんです。
ワタナベ:そ、そうですか。じゃあ、洗面室と2階の寝室は、手動で計測ガンバリマス!
数日前のそんなやりとりを思い返しながら、午後5時に「つむじ」に到着。日が落ちかけると同時に、すでに冷え込みが襲ってきている。この日は氷点下まで気温が下がる予報だ。
玄関ドアを開けた瞬間、明らかに室内が暖かいことに驚く。前回、下見に訪れたときも「内外で全然温度が違うな」とは思ったが…。あのときと違って、すでに夕闇に包まれて冷え込んできている。しかも、モデルハウスの鍵を渡してくれた、相羽建設のスタッフも既に帰宅した。冬、誰もいない家に帰ってくると、寒々しい空気を感じるものなのに、それがまったくないのだ。
「つむじ」はOMソーラーを搭載している。OMソーラーは、日中、屋根で太陽熱を集熱し、床下にその空気を送り込んで蓄熱する仕組みだ。夕方になっても、日中の熱がしっかりと残っているということなのだろう。「熱が逃げない」というのはこういうことか。
いつまでも玄関で驚いているわけにもいかないので、さっそく室内に入る。温湿度計を設置して、ひと息つくととっぷりと日が暮れた。
外気は3℃でも室内は16℃をキープ
さて、午後6時に1回目の記録。洗面所の室温は15.9℃で湿度が33%。2階の寝室は15.7℃で湿度37%だった。1階と2階とで室温に大きな差がない。筆者の自宅だと、晴れた日は日当たりのいい2階に暖気が集まって、1階のほうが寒いのに。
データロガーを確認すると、外気温は3.2℃で湿度47%。リビングは室温16.6℃で湿度28%だった。まだ暖房を入れていないのに、室内外でこんなに温度差があるとは驚きだ。
温度の記録も終わり、ふと気がついた。16℃なのに「寒くない」のだ。自宅に居る場合、16℃だと確実に暖房のスイッチを入れている。しかし、「つむじ」だと同じ16℃にもかかわらず暖房が無くても気にせず過ごせるのだ。「つむじ」の鍵を受けとる際に、「実は2階のエアコンが壊れていて使えません」と聞いて「ええっ、マジかよ」と思っていたのだが、これならなんとか乗り切れそうだ。
しばらくは30分ごとにせっせと室温と湿度の記録に励む。1階の洗面所と2階の寝室である和室を往復するのは、思ったより面倒で落ち着かないことも分かった。
Yデスクが用意した予定表にしたがって、午後7時に食事、午後9時に入浴を済ませる。キッチンを使ったり、風呂を沸かしたりしたせいだろうか、午後9時にはリビングと洗面所の温度が16.4℃に上がった。外気は2.4℃まで下がっており、暖房は一切使用していないのだが…。
築20年住宅に比べて優越感
ちょっとここで築20年の木造住宅に住むYデスクに電話してみる。
ワタナベ:お疲れ様です! 省エネ住宅、すごいですね。こちらは暖房入れずに過ごせてますよ!
Yデスク:こっちは午後5時半にはリビングの温度が14℃だったので、なんだか寒くて…。我慢できず、ガスファンヒーターを付けましたよ。今、リビングは22℃あります。でも洗面所は11℃と寒い状態です。午後9時に入浴したけれど、湯冷めしそうなので急いでフリースを着込みリビングに逃げ込みました。
ワタナベ:あ、そこはこちらと全然違いますね!
確かに、送ってもらったYデスクの自撮り画像はなんだか寒そうだ。こちらは洗面所もリビングとほぼ同じ室温なので、それほどの肌寒さは感じない。湯上がりもぽかぽかしているので、Yデスクとは逆にフリースを脱いだ状態で過ごしていた。
この解放感はちょっといい。室内に温度差が少ないというのは、こういうメリットもあるのか。
Yデスクに対して思いがけずに優越感を覚えたところで、持ち込んだノートパソコンでここまでのメモをまとめる。1時間ほどしてフリースを着たが、室内に冷え込む感覚はまったくない。
結局、この日は一度も暖房をつけずにすんだ。一晩寝てみて、どこまでこの室温が下がるのだろうか。温度計を見るのが楽しみだ。あ、午後10時台の計測と記録を忘れた…。室内が快適なせいだ、ということでYデスクに言い訳しよう…。
次回は、冷え込みが激しくなる朝の様子を紹介する。かなりの差が出たので、筆者とYデスクは正直驚いてしまった。
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2017.12.25
原発解体 もんじゅ廃炉決定 税金1兆円投入、稼働250日
◆核燃サイクル 失敗認めず維持
政府は二十一日、原子力関係閣僚会議を開き、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を廃炉にし、より実用炉に近い「高速実証炉」の開発に着手する方針を決めた。発電に使った以上の核燃料を生み出す「夢の原子炉」と言われたもんじゅは国民の税金を一兆円も投じながら、稼働日数二百五十日で退場する。しかし政府は使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル」事業は続ける方針だ。 (吉田通夫)
政府はもんじゅを核燃サイクルの中核に位置付けてきた。一九九四年に稼働させたが、爆発しやすいナトリウム漏れ事故が発生。その後もトラブル続きで、ほとんど稼働しなかった。
二〇一二年には機器の大量の点検漏れが発覚。原子力規制委員会は昨年、運営主体を文部科学省所管の「日本原子力研究開発機構(原子力機構)」から代えるよう求めたが、見つからなかった。また、再稼働には八年間で五千四百億円以上かかるとの見通しから廃炉を決定した。松野博一文部科学相は「一定の成果はあった」と失敗を認めなかったが、「フル出力での運転はできなかった」として議員歳費とは別に受け取る五カ月分の大臣給与と、賞与の計六十六万円を自主返納する考えを示した。原子力機構の児玉敏雄理事長も給与の10%の六カ月分の約六十六万円を返上する。
政府は一方で使用済み核燃料から出る「高レベル放射性廃棄物(核のごみ)」を減らすためにも、「高速炉開発を推進することが重要だ」(菅義偉官房長官)と強調。仏政府が計画する高速炉「ASTRID(アストリッド)」に資金を拠出するなどして続け、原型炉の次の段階の「実証炉」の建設を目指す。開発の工程表を一八年中に作る。
政府は廃炉には三十年で少なくとも三千七百五十億円かかると試算。二二年までに使用済み核燃料を取り出し、解体作業に入る工程を示した。だが、福井県の西川一誠知事は原子力機構が廃炉作業を担うことに「極めて不安」と反発している。政府は福井県と継続的に協議する場をつくり、説得を続ける。
写真
<もんじゅ> プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使い、発電しながら消費した以上のプルトニウムを生み出す高速増殖炉。実用化までの4段階のうち2段階目の原型炉で出力は28万キロワット。政府は使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル政策」の中核の一つに位置付けていた。
<核燃料サイクル> 原発で燃やした使用済み燃料から再処理工場でプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜてMOX(モックス)燃料に加工し、通常の原発や高速炉で使う構想。青森県六ケ所村に巨費を投じ、再処理工場とMOX燃料工場が建設されているが、いずれも未完成。高速炉開発も、原型炉の「もんじゅ」の段階でつまずき、ウラン資源のリサイクルは行き詰まっている。本紙の調べで、核燃料サイクルには、少なくとも計12兆円が費やされてきたことが判明している。
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2017.12.20
原発事故で汚染? 太陽光推進
東京電力福島第一原発事故が起きた二〇一一年から一六年十月末までの約五年間に、全国の十四港湾施設で輸出しようとしていた中古の自動車と建設重機の一部から国の基準を超える放射性物質が検出され、計約一万三千台が輸出差し止めになっていたことが、業界団体の集計で分かった。汚染源は特定されていないが、原発事故前は検出事例がなく、事故後に汚染された車両が各地に流通していた可能性が高い。
輸出を差し止められた車や重機の大半は、事業者が洗浄後に売却したとみられる。ピークは一二年の六千五百四十四台で、一五年は二百三十九台と減少傾向だが、原発事故の影響が改めて浮き彫りになり、国や事業者による対策が引き続き求められている。
輸出向けの中古車や重機の売買はオークションが主流で、国内の取引は線量を測定する規定もないため、荷主が汚染を知らないまま購入するケースが少なくない。業界団体の日本港運協会(東京)の集計には、車や重機を分解して輸出するケースは含まれておらず、汚染された台数はさらに多い可能性もある。
環境省は「除染して基準値以下まで放射線量を下げれば、再利用や輸出は問題ない」としているが、第一原発周辺の避難区域での国の除染は一六年度で終わる予定で、輸出しようとして差し止めになる車や重機は今後増える可能性もある。
同協会によると、国土交通省のガイドラインに基づき表面線量が毎時〇・三マイクロシーベルト以上なら輸出を差し止めて荷主に返却する。同五マイクロシーベルト以上なら隔離して、国の関係機関へ通報している。
一一年八月~一六年十月の間、同〇・三マイクロシーベルト以上は約一万三千台。一六年は十月末までに百四十六台だった。福島県の業者は「除染で使った車や重機の再利用は、国内では風評被害が心配されるので、需要のある東南アジアなどへ輸出するしかないのが実情だ」と話している。太陽光発電等の自然エネルギーに注目したい。
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2017.09.10
スマホ・車 どこでも充電 置くだけ 走るだけ 感電なし
電線を使わずに電気を送るワイヤレス(無線)給電が身近になりつつある。電動自転車などに電気を供給する国内初の実験が始まったほか、人気スマートフォン(スマホ)の最新型にも搭載されるとみられている。宇宙空間でつくった電気を地上へ送る研究もある。いつでもどこでも電気が充電できる「電線のない社会」が実現するかもしれない。
京都府南部に位置する精華町役場。今年3月、新しい電動自転車が登場した。見た目は普通の自転車だが、前カゴに板状の受電装置があり、専用の送電装置の前に駐輪すると無線を受けて充電できる。
無線は電子レンジにも使うマイクロ波を使う。充電は安全面を考慮し職員がいない夜間だけ。1回の充電で約25キロ走れる。同町は研究所が点在する関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)があり、業務に自転車は欠かせない。森田吉弥健康推進課長は「重いバッテリーを取り外す手間が省けて便利だ」と話す。
同町では5月、役場の5階にある企画調整課内の壁に貼り付けた温度計へ無線給電する実験も始めた。配線が難しい壁近くの温度が簡単に分かり、空調を管理しやすい。得られたデータは高齢者施設で入居者の体調などを把握するセンサーの開発に役立てる。
これらの装置は京都大学と三菱重工業、パナソニックが共同開発した。いずれも政府の国家戦略特区で電波法の規制緩和を受けた国内初の実証実験だ。篠原真毅京大教授は「無線給電の普及に向けた大きな一歩になる」と強調する。
電気自動車(EV)も無線給電の用途として期待されている。三菱電機は2つのコイルの間で磁界の変化を介して電気を伝える「電磁誘導方式」で、高効率の無線給電装置を開発した。「自宅に設置した太陽光発電との間で、電気を簡単に融通できる」(同社)
英国の高速道路では、走行しながら充電できる専用レーンの計画も進む。EVと無線給電の組み合わせにより、燃料補充の心配がない、新しい自動車社会が誕生しそうだ。
実用化が先行するのは携帯電話だ。電磁誘導方式を採用する。普及を後押しするため、中国語で「気」の意味を表す「Qi(チー)」という規格が2010年に始動した。世界の携帯機器や自動車のメーカーなど約240社が、同規格を運営するWPCという団体に参加している。欧米を中心に、互換性のある製品が200点近く市場に出ている。
今年2月には、米アップルがWPCに加盟した。9月12日に発表するスマホ「iPhone(アイフォーン)」の新型に同規格による機能が搭載されるとみられている。篠原教授は「無線給電の知名度が一気に上がる」と期待する。
Qiの送電能力は現在15ワットまで。60ワット、120ワットと能力を上げていく計画だ。能力が高まれば携帯電話から照明やテレビ、パソコン、掃除機まで用途が広がる。家庭から電源コードがなくなるかもしれない。同規格の日本代表を務めるロームの鈴木紀行通信スマートデバイス課長は「新サービスが生まれたり、生活が便利になったりする」と話す。
コンセントが要らず、水にぬれても感電の心配がないため、喫茶店のテーブルに置くだけで充電したり、屋外の自動販売機などから電気をもらったりもできる。充電機能を売りにした机や照明機器、カバンなども登場しそうだ。こうした商品が身の回りにあふれれば、「充電」という意識すらなくなるかもしれない。
地球規模の研究も進んでいる。京大の石川容平特任教授は宇宙空間で太陽光により発電し、地上に送る「宇宙太陽光発電」技術の実現を目指している。静止軌道に浮かべた太陽光パネルで電気をつくって、海中に設けた装置にマイクロ波で送り、いったん蓄えた後に、陸上へ送電する構想だ。石川特任教授は「世界全体を網羅して安定的に電力を供給する全く新しい送電網が実現できる」と力を込める。
大きな期待が集まる無線給電にも課題はある。一つは安全性だ。電磁波の人体影響に詳しい京大の宮越順二特任教授は「長期の評価はまだ十分ではない」と指摘。篠原教授と協力し今年度からマイクロ波による影響研究を始める。
もう一つは電波を扱う規格だ。携帯電話使用時に発生する電磁波との干渉が指摘されている。普及には電波法を見直す必要があるが、日本は欧米に比べて出遅れており、国内メーカーは危機感を抱く。
無線技術の進歩で生まれた携帯電話はこの数十年で、ビジネスや生活スタイルを大きく変えた。「第2の無線技術」といえる無線給電が普及すれば、新たな経済社会が生み出されるだろう。(竹下敦宣)
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2017.09.08
九電、再生エネ発電の出力制御訓練 15日から3回
九州電力は8日、太陽光発電など再生可能エネルギーの出力制御の訓練を実施すると発表した。再生エネの発電量が増え、管内全体の需給バランスが崩れ停電が発生する可能性があることを見据えた取り組み。15日と20日、21日の3回実施する。
対象となるのは太陽光発電事業者と風力発電事業者の合計約2000件。電話とメールで事業者に連絡し出力制御の指令が確実に伝わるかを確認する。訓練は模擬指令で、実際に出力制御は行わない。
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2017.09.07
2018年度概算要求 環境省、住宅用蓄電池・集合住宅ZEH化に新補助金
環境省は、「平成30年度概算要求額」を発表した。2018年度の概算要求額は、2017年度当初予算額比で約3%増の1兆516億円。
新たな成長につながる気候変動対策を重点施策に掲げ、省エネ・再生可能エネルギーの導入・展開などの排出削減策では、主な措置として、4つの新規事業に取り組む。
住宅用太陽光発電設備が設置されている新築・既築の住宅に対しては、家庭用蓄電池や蓄熱設備の設置を支援する。84億円を計上した。2019年度から固定価格買取制度(FIT)の買取期間が終了する住宅用太陽光発電が出現するため、こうした設備に対して支援するとともに、太陽光発電の自家消費を促す。
戸建住宅とともに、分譲集合住宅・賃貸住宅のネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化を支援する事業に62億円を計上した。家庭部門のCO2削減目標達成のため、戸建住宅のZEH化を進め、分譲集合住宅・賃貸住宅のZEH化のキッカケを作ることが目的だ。
このほか、新規事業として、グリーンボンドや地域の資金を活用した低炭素化推進モデル事業(20億円)と、環境に配慮した再生可能エネルギー導入のための情報整備事業(13億5000万円)を盛り込んでいる。
また、税制改正の要望では、先進的省エネ・再エネ投資促進税制の創設(法人税、所得税、法人住民税、事業税)等を求めた。
以下、家庭用蓄電・蓄熱導入事業と、ZEH化等の支援事業について、概要を紹介する。なお、金額部分は2018年度要求額。カッコ内は2017年度当初予算額。
太陽光発電の自立化に向けた家庭用蓄電・蓄熱導入事業(経済産業省連携事業) 84億円(新規)
住宅用太陽光発電設備(10kW未満)が設置されている新築・既築の住宅に(1)一定の要件を満たした家庭用蓄電池、(2)蓄電池と合わせて導入する蓄熱設備を設置する世帯に対し設備費と工事費の一部を補助する。補助率等は(1)設備費:定額(3万円/kWh、上限:1/3)、工事費:定額(上限:5万円/台)、(2)設備費・工事費合わせて定額(上限:5万円/戸)。事業実施期間は2018年度~2019年度。
ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等による住宅における低炭素化促進事業(経済産業省・国土交通省連携事業) 62億円(新規)
この事業では、(1)戸建住宅において、ZEHの交付要件を満たす住宅を新築・改修する場合、(2)ZEHの要件を満たす住宅に、低炭素素材、再エネ熱を導入する場合、(3)分譲集合住宅・賃貸集合住宅(一定規模以下)において、ZEH相当となるよう新築・改修する場合、定額補助を行う。補助率等は(1)・(3)は定額(70万円/戸)、(2)は定額(上限額:90万円/戸)。また、蓄電池3万円/kWh(上限額:30万円)を別途補助する。事業実施期間は、(1)2018年度~2019年度、(2)・(3)については2018年~2022年度。
同事業は、従来、経済産業省において実施していたZEH支援を連携事業として環境省において実施する。
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2017.09.06
再生エネ国際会議、長野で開催 県、資源・取り組みをPR
世界各国の自治体やエネルギー事業者が集う「地域再生可能エネルギー国際会議」が7日、長野市で開幕した。2007年の初回以来、欧州以外での開催は初。阿部守一知事は県内には太陽光や水力など発電に向く資源が豊富に存在することをPR。国際会議の開催を機に自然エネルギーの先進県であることを訴え、発電や関連機器の事業者の誘致につなげる。
会議は再生可能エネルギーに取り組む自治体や事業者が意見交換するのが目的。07年以降、独フライブルク市を中心に開催してきた。16年の会議に参加した中島恵理副知事がフライブルク市長に働きかけ、長野での開催が実現した。
今回のテーマは「低炭素社会に向けたエネルギー自立地域の創出とネットワーク」。7日には「地域エネルギー会社の役割」「太陽光発電の発展の余地」といった課題について出席者が議論を交わした。8日の首長サミット後に、再生可能エネルギー導入の必要性を訴える「長野宣言」を採択する予定だ。
開会あいさつに立った阿部知事は「太陽エネルギー、バイオマス、3000メートル級の山に囲まれる地形を生かした水力発電のポテンシャルも大きく持っている」と発言。特徴的な取り組みとして、4月に水力発電の電気を東京都世田谷区の約40保育園に売電する事業を始めたことを紹介した。
県は20年までの方向性をまとめた「環境エネルギー戦略」を策定済み。長野県内では農業用水を利用した小水力発電なども盛んで、「自然エネルギー信州ネット」を通じて地域ごとに立ち上げた協議会が中心となって活動している。今回の会議はこうした県の取り組みを国内外に発信する場にもなる。
7日の参加者は自治体の関係者や学生など445人。県は「他の国際会議に比べて県外からの来訪者が多い。注目度の高さを反映しているのではないか」(環境部)とみている。
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