高市首相、GX・次世代太陽電池・エネルギー安保で「進退かける」解散・総選挙
高市早苗首相は1月19日、衆議院の解散を表明する記者会見を首相官邸で行った。「日本列島を、強く豊かに」のスローガンの下、グリーントランスフォーメーション(GX)の加速や次世代エネルギーの確保などを含む環境関連の重要政策を掲げ、選挙で国民に信を問う姿勢を明確にした。
会見では、エネルギー安定供給の確保を大前提としたGX推進の方針が改めて強調され、特に次世代型太陽電池であるペロブスカイト太陽電池の早期社会実装や、脱炭素電源の拡大に向けた取り組みに触れた。
高市首相は「エネルギー・資源安全保障の強化は重要だ。電力を安定的に安価に供給できる対策を講ずることは、私たちの暮らしと日本の産業を守るために必要な道だ」と述べ、エネルギー問題を国際情勢や安全保障の観点も踏まえて重点的に推進する考えを示した。
首相は「日本で発明されたペロブスカイト太陽電池の普及、小型モジュール炉などの次世代革新炉、日本企業の技術が優位性を持つフュージョンエネルギーの早期社会実装、冷媒適用技術や光電融合技術などによる省エネ型データセンターの普及、酸化物型全固体電池の社会実装など、日本の強みを生かさなければもったいない」とも述べ、日本の技術を生かした脱炭素電源の拡大に意欲を示した。
GXを「産業構造転換」の柱に
「GX実現に向けた基本方針」によると、政府はGXの実現を通じて2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラルの国際公約の達成を目指しており、安定・安価なエネルギー供給につながるエネルギー需給構造の転換、産業構造・社会構造の変革を同時に進める方針だ。
特に「製造業の構造転換(燃料・原料転換)」として、水素還元製鉄の活用や高炉から電炉への生産体制転換、アンモニア燃焼型ナフサクラッカーなどによる低炭素循環型生産体制への転換、石炭自家発電の燃料転換などへの集中的支援を推進。大規模需要家に対して非化石エネルギー転換に関する中長期計画の提出と定期報告を義務化し、主要5業種(鉄鋼業・化学工業・セメント製造業・製紙業・自動車製造業)に対しては国が非化石エネルギー転換の目安を示している。
ペロブスカイト太陽電池の早期実装
再生可能エネルギーの主力電源化に関しては、太陽光発電の更なる導入拡大や技術自給率の向上にも資する次世代型太陽電池の早期の社会実装に向けて研究開発・導入支援やユーザーと連携した実証を加速するとともに、需要創出や量産体制の構築を推進する方針である。
ペロブスカイト太陽電池は、軽量・柔軟などの特徴を持ち、従来型の太陽光発電パネルの設置が困難であった耐荷重性の低い建築物の屋根や建物の壁面等への設置が可能となる次世代技術である。主な原料のひとつであるヨウ素は日本が世界シェアの約30%を占めており、再エネ導入拡大と強靭なエネルギー供給構造の実現につながると期待されている。
2025年度予算では、「脱炭素成長型経済構造移行推進対策費補助金」として、ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業が措置されており、環境省と経済産業省が連携して推進している。補助対象は、耐荷重等の制約により従来型の太陽光パネルの設置が困難だった場所へのフィルム型ペロブスカイト太陽電池の導入で、補助率は原則3分の2、特定要件を満たす場合は4分の3となる。
第7次エネルギー基本計画における次世代太陽光
2025年2月に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、次世代型太陽電池に関する具体的な数値目標が示されている。2025年までに発電コスト20円/kWh、2030年までに14円/kWh、2040年までに10〜14円/kWh以下の水準を目指すとともに、2030年を待たずにGW級の量産体制構築を目指す方針が明記された。
また、2040年には約20GWの導入を目標とし、官民関係者が総力を挙げて、世界に引けを取らない規模とスピードで量産技術の確立、生産体制整備、需要の創出に三位一体で取り組むとしている。海外市場への本格展開と、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)などの専門機関とも連携した信頼性評価等に関する国際標準の策定も目指す。
GX経済移行債による20兆円規模の先行投資支援
政府は「GX実現に向けた基本方針」に基づき、今後10年間で官民協調により150兆円を超えるGX投資を実現する方針だ。そのための具体的手段として、「GX経済移行債」を活用した20兆円規模の大胆な先行投資支援を実行する。
投資促進策は、新たな市場・需要の創出に効果的につながるよう、規制・制度的措置と一体的に講じられる。現時点で想定される投資や事業の見通しに基づき、企業規模を問わず、再生可能エネルギーや原子力等の非化石エネルギーへの転換、鉄鋼・化学など製造業を始めとする需給一体での産業構造転換や抜本的な省エネの推進、資源循環・炭素固定技術等の研究開発等への投資に対して支援が実施される。
支援策は個々の事業の実用化の段階、事業リスク、市場・製品の性質などに応じて、補助、出資、債務保証などを適切に組み合わせて実施される方針だ。
次世代型太陽電池の開発・実装に係る具体的支援内容
グリーンイノベーション基金事業として実施されている「次世代型太陽電池の開発」プロジェクトでは、2025年9月29日に改定された研究開発・社会実装計画において、以下の研究開発内容が示されている。
基盤技術開発事業では、ペロブスカイト太陽電池の最適な材料組成の開発、変換効率と耐久性を両立する太陽電池セルの要素技術開発、分析・評価技術の開発、国際標準策定の推進、タンデム型ペロブスカイト太陽電池の要素技術および信頼性評価技術の開発が進められる。
単接合太陽電池実用化事業では、2030年度までに発電コスト14円/kWh以下を実現する見通しを得ることを目標とし、製品レベルの大型化を実現するための各製造プロセスの個別要素技術の確立に向けた研究開発が行われる。
単接合太陽電池実証事業では、量産化技術の確立と並行して、ペロブスカイト太陽電池の特徴である軽量性・柔軟性を活かした設置方法や施工方法等を含めた性能検証のため、国内外の市場を想定したフィールド実証が実施される。
タンデム太陽電池量産技術実証事業では、2030年度までに住宅用発電コスト12円/kWh以下と変換効率30%以上を達成することを目標としている。
企業向けGX推進の取組表明が補助要件に
また、先程触れた「脱炭素成長型経済構造移行推進対策費補助金」では、民間企業が申請する場合、温室効果ガス排出削減のための取組実施について表明することが要件となっている。
具体的には、国内におけるScope1・Scope2に関する排出削減目標を2025年度、2030年度について設定し、実施期間が含まれる年度分の排出実績及び目標達成に向けた進捗状況を第三者による検証を実施のうえ毎年報告・公表することが求められる。目標を達成できない場合にはJクレジットやJCM(二国間クレジット制度)、その他国内の温室効果ガス排出削減に貢献する適格クレジットを調達する、または未達理由を報告・公表することが必要となる。
ただし、算定・報告・公表制度に基づく2022年度二酸化炭素排出量が20万t未満の企業又は中小企業基本法に規定する中小企業に該当する企業については、その他の温室効果ガスの排出削減のための取組の提出をもって代えることができる。
成長志向型カーボンプライシングの導入
政府は、「成長志向型カーボンプライシング構想」も同時に進める。GX投資を官民協調で実現するため、「GX経済移行債」などを活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用の3つの措置を講ずるものである。
具体的なカーボンプライシングの制度設計については、多排出産業を中心に企業ごとの状況を踏まえた野心的な削減目標に基づく「排出量取引制度」と、炭素排出に対する一律のカーボンプライシングとしての「炭素賦課金」を併せて導入することとしている。
排出量取引制度は2026年度から本格稼働する計画で、2023年度から試行的に開始するGXリーグにおける制度を発展させる形で進められている。発電事業者に対する「有償オークション」は2033年度から段階的に導入され、「炭素に対する賦課金」は2028年度から導入される予定だ。
脱炭素製品の需要創出に向けた取組
政府は需要側からのGX推進について、カーボンフットプリントなど排出量の「見える化」を含めた新たな需要創出策を進める方針も示している。
市場に一定程度普及している低炭素製品については、官民による調達を更に拡大するため、カーボンフットプリント、環境ラベルの活用等を進めるほか、グリーン購入法等において調達すべき製品の判断基準や算定方法などについて見直し・検討を行う。
革新的技術・製品の需要創出のためには、製品・技術の革新性や調達実現に対するインセンティブ付与など、購入主体等の特性を踏まえつつ、需要を拡大するための適切な方策を検討する。
サプライチェーン全体での排出削減と製品・産業の競争力強化を図る観点から、カーボンフットプリントの算定等に関するガイドラインを策定し、ガイドラインに準拠して算定等されたグリーン製品の官民による調達を推進する方針だ。
衆院解散、環境対策実務者にどう影響?
今回の衆院解散表明により、GX、エネルギー、脱炭素電源など環境関係の政策が国政上の重要な論点として位置づけられたことで、環境対策を推進する企業の実務担当者にとっては以下のような影響が想定される。
第一に、次世代型太陽電池導入に関する補助制度の継続と拡充が続くかどうかである。ペロブスカイト太陽電池については、従来型太陽光発電パネルの設置が困難であった場所への導入が可能となるため、既存施設の脱炭素化を進める上で新たな選択肢となるが、選挙の結果によっては政府方針が変更される可能性もある。実務者は早期の制度活用も含め、政策動向を見極める必要がある。
第二に、企業のGX推進に関する情報開示要件の強化である。補助事業の申請要件として排出削減目標の設定と第三者検証を伴う実績報告が求められるようになっており、今後はこうした要件が補助事業に限らず広がる可能性がある。実務者は選挙の結果にかかわらず、自社の排出削減目標の設定と情報開示体制の整備を急ぐ必要があるだろう。
第三に、カーボンプライシング制度の本格導入が2026年度以降に控えている点である。排出量取引制度や炭素に対する賦課金の導入により、炭素排出に対する経済的負担が段階的に増加していく見通しだ。選挙の結果次第で多少の方針変更はありうるものの、基本的な方向性に変更はないとみられ、中長期的な脱炭素投資計画の策定が急務となる。
第四に、サプライチェーン全体での脱炭素化要請である。カーボンフットプリントの算定ガイドライン策定、グリーン製品の調達推進により、取引先からの排出削減要請や製品のカーボンフットプリント開示要求が増加することが予想される。サプライチェーンの脱炭素化については世界的な推進事項であり、選挙結果に関係なく進められるべきだろう。
第五に、脱炭素関連技術に関する国際標準化の動きである。ペロブスカイト太陽電池を含む次世代技術については、産総研などの専門機関と連携した信頼性評価等に関する国際標準の策定が進められている。ペロブスカイトを推進する方針は政権がどの枠組みになっても大きな変更はないとみられており、国際市場での競争力確保の観点から、常に動向を注視する必要がある。
今回の解散表明会見では、GX推進が高市政権の根幹政策として改めて位置づけられたものの、2026年度予算案の成立遅れ、政治空白の大きさなど政策面への影響は非常に大きい。環境対策の実務担当者にとっては、選挙の結果によって政策の継続性が担保されるかどうか慎重に見極めながら、より野心的な目標設定と実行が求められるだろう。
2026年1月23日 カテゴリー: 未分類





































































