伊藤忠、家庭結び電力融通
太陽光発電など分散する電源を束ね、一つの発電所のように機能させる「仮想発電所(VPP)」への参入が相次いでいる。伊藤忠商事は日本市場への参入をにらみ、年内にも北米で事業を始める。東京ガスは自社開発のシステムを外販する。日本では2021年にVPPを展開する環境が整う。再生可能エネルギーの普及に弾みがつく可能性があるが、蓄電池のコストなど課題も残る。
伊藤忠は蓄電池システムを開発するカナダ企業、イグアナ・テクノロジーズ(アルバータ州)と資本提携した。既に提携関係にある英企業の人工知能(AI)をイグアナのシステムに搭載し、住宅用太陽光と蓄電池の稼働状況を一括管理できるようにする。
伊藤忠は各家庭の余剰電力を取りまとめて管理する仲介役を担う。家庭に太陽光パネルを無償で設置する米サンノーバ(テキサス州)にも出資。同社の顧客約8万世帯に蓄電池を提案し、VPPに組み入れることをめざす。北米でノウハウを積み、日本市場への参入に備える。
VPP普及には家庭用蓄電池がカギを握る(左上がイグアナ・テクノロジーズの蓄電池)
東京ガスは子会社を通じ、20年にガス設備を組み合わせたVPPサービスを始める。同社は1月から横浜市の研究所や千葉市の冷暖房センターなど3施設を連動させてVPPの運用をしている。電力の制御システムを含めた運用ノウハウを一つのサービスにまとめ、外販に乗り出す。
VPP事業に名乗りを上げる企業が相次ぐ背景には制度設計が進んできたことがある。政府は21年度にも余剰電力を売る事業者と買い手となる電力会社が参加する新たな取引市場を立ち上げる。電力システム全体で需給の調整がしやすくなり、各社によるVPP事業が本格化する見通しだ。
再生エネの普及に向けて、VPPの導入は重要な試金石になる。太陽光や風力などは全国各地で導入が進んでいるが、気象条件や時間帯によって発電量が大きく振れやすい。現在は稼働と停止を柔軟に切り替えられる火力発電所が需給の調整役を担っている。
VPPを活用すれば、太陽光が稼働し電力が余る昼間に蓄電池や電気自動車(EV)に電気をため、不足する夜間に放出できるようになる。大型火力に頼らずに需給を調整できるため、再エネ普及に弾みがつく契機になるとみられている。
VPP事業は欧米が先行し、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル子会社の独ゾネンは欧州で約5万件の顧客を持つ。ドイツやフランスなどでは再生エネ拡大に伴い、大手電力が持つ従来型の大型電源の稼働率が低下した。欧州電力大手は非中核事業を分離したり、他社との事業統合を計画したりするなど業界再編の動きが活発になっている。
日本でもVPPが広がることで、大規模電源や需給調整のノウハウを持つ大手電力が優位に立つ時代は転機を迎える。
海外企業も日本市場に食指を動かす。欧米を中心に約10カ国でVPPを運用するイタリアの電力大手、エネルグループは、日本企業に需給調整システムを提供する方針だ。シェルもゾネンを通じて日本のVPP市場に参入する計画だ。
VPP普及の大きな課題となるのが蓄電池のコストだ。柔軟な需給調整に不可欠だが、現在は「価格が高く一般家庭や企業で導入するのが難しい」(新電力)。
三菱総合研究所の長谷川功主任研究員は「家庭用蓄電池は現在、容量1キロワット時あたり20万円超だが、これが6万円程度まで下がれば爆発的に普及する可能性がある」と指摘する。米テスラが安価な蓄電池の日本への投入を予定しており、販売競争や技術革新で価格が大きく下がれば、VPP普及促進につながる。
VPPの普及に伴い蓄電池など関連設備の価格が安くなれば、電力大手が持つ大規模火力発電所に対してもコスト面で競争力が持てる。例えばVPPをいち早く事業化したゾネンは利用者に蓄電池と太陽光パネルを平均200万円前後で購入してもらい、その後は月額料金ゼロで電気を提供するビジネスモデルをドイツで展開している。
ゾネンがVPPを日本で展開する際の価格は決まっていないが、新たな価格体系の電力サービスが日本で普及すれば、主要国で最も高い水準の日本の電気料金が現在より安くなる可能性がある。
2020年3月15日 カテゴリー: 未分類