水に太陽光を当てるだけで水素製造 新手法で水分解光触媒の活性向上
東北大学と東京理科大学は10月7日、水に太陽光を当てるだけで水素を製造できる水分解光触媒上に、極微細な助触媒を付着する新規手法の確立に成功したと発表した。従来手法と比較して水分解光触媒活性が2.6倍向上したといい、水と太陽光からの水素製造技術への実用化が期待できる。
光触媒の活性向上が不可欠
次世代エネルギー社会の実現に向けて、水に太陽光を当てて水素ガスを製造できる水分解光触媒の開発が進められている。その実用化にはさらなる光触媒の活性向上が必要不可欠となっている。
水分解光触媒は、光触媒母体(光を吸収する半導体光触媒の母体)と、実際に水を分解する助触媒(金属・金属酸化物微粒子)から構成される。光触媒母体の改良に関する報告例は数多くあるが、助触媒は多くの改良の余地が残されている。助触媒は実際の反応サイトであり、電荷分離の促進など重要な役割を担っている。このため、助触媒の高機能化は光触媒の活性向上の鍵になる。
粒径1nmのロジウム・クロム複合酸化物助触媒を担持
今回、東北大と東京理科大の研究グループは、粒径1nm程度の極微細なロジウム・クロム複合酸化物助触媒を、水分解光触媒のチタン酸ストロンチウム表面で、水素ガスを生成する結晶面だけに選択的に担持する(付着させる)新規手法を確立した。
これにより、従来の助触媒担持手法(光電析法)と比較して、2.6倍高い水分解光触媒活性を達成することに成功した。この研究によって、水に太陽光を当てるだけの水素製造技術の実用化と、さまざまな最先端光触媒の更なる高活性化が可能になり次世代エネルギー社会の構築は大きく加速されると期待される。
無尽蔵にある水と太陽光から水素製造へ
カーボンニュートラリティの実現に向けたさまざまな取り組みの1つとして、水素をエネルギー媒体とした循環型エネルギー社会の構築が注目を集めている。水分解光触媒を用いると、この水素を地球上に無尽蔵に存在する水と太陽光のみから製造することが可能となる。
水分解光触媒の実用化には、現在1.1%の太陽光–水素変換効率(STH)を5~10%まで高める必要があると見積もられている。STHは、降り注ぐ太陽光エネルギーのうち、何%を水素に変換・蓄積できるかを示す指標だ。その実現に向け、現在、水分解光触媒の高機能化に関する研究が行われている。
光触媒の水素生成面のみに担持する新規手法
今回確立した、光触媒の水素生成面を選んで極微細な助触媒を担持する新規手法は以下の通り。
新規手法の概要
助触媒は一般に、光電着法(PD法)や含浸法(IMP法)と呼ばれる手法によって光触媒上に担持される(下図参照)。これらの方法は、簡便であるものの、助触媒の「サイズ」や「電子構造」を精密に制御することは原理上、とても難しい。ここで、微細な粒径によって助触媒を担持させると、助触媒の比表面積増大により、助触媒担持量当たりの活性は大きく向上する。この研究グループは、あらかじめ粒径が1nm程度の微細な金属ナノクラスターを精密に合成し、それらを光触媒上にそのままの粒径で担持させる方法(NCD法)を確立した。
一方、今回研究グループが確立した微細な助触媒の担持が可能なNCD法では、助触媒は各結晶面に非選択的に担持されるため、所望の反応が生じない結晶面においても助触媒が担持されてしまうという課題があった。そこで、助触媒の粒径を微細に保ったまま、結晶面選択的に助触媒を担持する手法の開発が望まれていた。
2つの工夫で課題を解決
ロジウム・クロム複合酸化物粒子は、高い水素生成速度を誘起することに加え、逆反応を抑制する性質を併せもっていることから、高活性な水素生成助触媒として機能することが知られている。今回の研究では、粒径が1nm程度の微細なロジウム・クロム複合酸化物助触媒を、光触媒母体(18面体チタン酸ストロンチウム)上の水素生成面に対して選択的に担持する方法(F-NCD法)を確立することに成功した。
具体的には、この研究グループが過去に報告したNCD法に対して、次の2つの工夫を施した。
- 特定の結晶面を保護する有機物を添加することで、酸素生成面への助触媒前駆体(Rh錯体)の化学吸着を抑制した
- 光還元的な配位子除去を導入することで、吸着したRh錯体の水素生成結晶面への固定化を促進し、それにより、Rh錯体の吸着率を高めた
2024年10月29日 カテゴリー: 未分類