止められない工事が止まった 玄海原発で感染者の衝撃

工程の遅れが許されない原子力発電所のテロ対策工事が、建設現場で新型コロナウイルスの感染者が出たため中断に追い込まれた。完成が遅れれば、運転停止にもつながりかねない。

■大林組社員が感染

問題が起こったのは、九州電力の玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)だ。制御室など重要施設への航空機によるテロ行為を防ぐ「特定重大事故等対処施設」の土木工事で、大林組の50代の男性社員1人の感染が4月14日に判明した。

同日午後5時43分に大林組から報告を受けた九州電力は、夜勤時間帯に当たる午後8時から原子力発電所構内の全ての工事を中断。翌15日に、自社の社員約40人のほか、テロ対策施設の土木工事の関係者約260人に対して出勤を停止したと発表した。

男性が携わっていた土木工事は、大林組と前田建設工業の共同企業体(JV)が請け負っている。九州電力は、安全上の理由から工事の詳細を明らかにしていない。

九州電力によると、原発の運転に関しては、担当する同社社員とこの男性が接触していないので、影響はないとしている。

ただ、特定重大事故等対処施設は原発の新規制基準で設置が義務付けられている。玄海原発では、2022年夏ごろまでに完成させなければならない。施設の設置が遅れると、原子力規制委員会から原発の運転停止を命じられる。

玄海原発では1号機と2号機の廃炉計画が進む一方、11年の東日本大震災の後に停止した3号機と4号機は国や自治体、住民らとの折衝を経て18年に再稼働した経緯がある。施設設置の遅れによる運転停止は避けたいところだ。しかし、今のところ工事再開のめどは立っておらず、工事の進捗への影響も不明だ。

感染が確認された大林組の社員は、佐賀県唐津市在住。3月29日に北九州市を訪れ、冠婚葬祭の用で市内に1時間ほど滞在した。4月10日に日帰りで大阪市に出かけ、同日夜に39度の発熱と味覚障害が出た。11日と12日は唐津市内の自宅で静養。13日に帰国者・接触者相談センターに相談するとともに、2つの医療機関を受診した。14日に検査で陽性と判明し、同日から県内の感染症指定医療機関に入院した。

大林組はこの社員の感染について、勤務地など具体的な内容を示さずに、4月14日に自社のウエブサイトで公表。翌15日には、東京本店が管轄する事業所に勤務する別の社員(内勤者)1人の感染を明らかにしている。

■主要建設会社で広がる社員の感染

大林組は4月15日、緊急事態宣言の対象となっていた7都府県で施工中の工事を原則として中断する方針を示した(写真:日経コンストラクション)

大林組は4月15日、緊急事態宣言の対象となっていた7都府県で施工中の工事を原則として中断する方針を示した(写真:日経コンストラクション)

大林組以外の主要建設会社の間でも、社員の感染が広がっている。3月5日に公表した五洋建設を皮切りに、熊谷組三井住友建設東急建設西松建設、竹中工務店、前田建設工業、清水建設と次々と社員の感染が明らかになっている。熊谷組、東急建設、前田建設工業、清水建設の4社は、感染した社員が現場の作業所に勤めていることも公表している。

さらに、西松建設と東急建設、清水建設の3社は、政府が4月7日に発令した緊急事態宣言の対象7都府県で施工中の工事を原則として中断する方針を示している。大林組と戸田建設の2社も4月15日に同様の方針を公表した。

ただし、原則中断とする会社は少数派だ。民間工事を中心に、工事中断で完成が遅れた場合、発注者から巨額の補償などを迫られる可能性がある。その金額は工事1件当たり数億円に及ぶとの指摘もあり、そう簡単には工事を止められない。加えて、「工事中断を申し出ると、顧客の心象を悪くして、今後の受注に支障が出かねない」との声も聞かれる。

公共工事でも、似たような事情がある。国土交通省は緊急事態宣言の当日、対象地域で進行中の直轄工事について、受注者の希望に応じて一時中止するよう、地方整備局などに通知した。しかし3日後の4月10日時点で、受注者から一時中止を申し出たのは対象地域内の工事約1000件のうち約80件(8%)にとどまる。

「工事中断で完成が遅れた場合、受注者の負担金の扱いがどうなるのか。本当に受注者にペナルティーを科さないのか」。こんな疑心暗鬼が受注者の間に漂っている。

ただ、玄海原発の工事のように、ひとたび現場社員の感染が判明すれば、「止めてはいけない工事」を止めざるを得なくなる。その場合の補償などを考えれば、建設会社にとって現場の感染防止対策の徹底は焦眉の急だ。

 

2020年4月18日 カテゴリー: 未分類

 


 

 

 

 

 

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