延岡市に咲いた「パネルの花」、「見て楽しい」メガソーラー
宮崎県の北部、延岡市北方町に「速日の峰(はやひのみね)」と呼ばれる山がある。標高は868mで、大崩(おおくえ)・祖母(そぼ)・傾(かたむき)山系や阿蘇の山々が一望できる。
山頂の直下には、総合レジャー施設「ETOランド速日の峰」が立地している。この施設内に、太陽光パネルを花のような形に配置したメガソーラー(大規模太陽光発電所)がある(図1)。
まるで、地面に咲いた花が、太陽に向けて花びらを開いているように配置されている。一般的な地上設置型の太陽光発電所は、太陽光パネルを南向きに10~20度に傾けて、直線的な列に並べている。こうした整然としたパネル配置とは一線を画している。
こうした地上絵のような配置で、「見る人を楽しませる」ことを狙ったメガソーラーとしては、米国フロリダ州における「ミッキーマウス柄」(関連ニュース1)、中国山西省大同市の「パンダ柄」(関連ニュース2)などがある。
米国のミッキーマウス柄は地主がウォルト・ディズニー、中国のパンダ柄は発電事業者がパンダ・グリーン・エナジーと、いずれも関係する企業を代表するキャラクターや、社名に由来のある動物を模した。
ETOランド速日の峰のメガソーラーは、ウエストホールディングスのグループが開発・運営している。
開発を主導したウエストホールディングスの江頭栄一郎常務によると、「山の上にあるレジャー施設にふさわしい、来場者が見て楽しいと感じる設備にしたかった」という。
一方で、敷地内にできるだけ間隔をあけずに太陽光パネルを整然と並べている一般的な太陽光発電所に比べると、パネルを並べない場所が多くできる。設置できるパネル枚数は減ることになり、事業面積当たりの設置効率は相対的に低くなる(図2)。
レジャーランド内に立地する以上、「事業性や収益性ばかりを求め、売電量だけを追求する太陽光発電所では面白くない。人が集まる場所に似合う、楽しい発電所にしたいと当初から考えていた。開発を手がけた20番目の太陽光発電所となり、地域に愛されることの工夫を、ここまで前面に打ち出せる案件に出会えたことは、プレゼントのように感じている」(江頭常務)という。
ウエストグループでは今後、ETOランドのメガソーラーと同じように、集客を意識したレジャーランド型の再生可能エネルギー発電所の開発を計画している。その開発では、ETOランドの発電所の経験が生きるとみている。
人工芝スキー場の跡地を活用
「ETOランド速日の峰」は、延岡市が第三セクター方式で運営している。
延岡市と合併する前の北方町が開発し、1995年に開業した後、人工芝スキー場やゴーカート、パターゴルフ、貸コテージによるキャンプ場、農園や畜舎、ゲームセンターなどを備えた総合レジャー施設として運営してきた(図3)。
「ETO」という名称は、旧北方町が地名に干支(えと)を採用していたことによる。例えば、北方町を所管する北方総合支所の所在地の住所は「北方町川水流卯(う)682番地」。こうした地名は、明治時代の町村制の施行時に使われ始め、南東部から子、丑、寅、卯などと、時計回りに干支の地名が配され、延岡市と合併した現在でも変わらない。
この干支の地名に、常緑による安らぎ(Ever green)、すばらしい環境という宝物(Treasure)、憩い(Oasis)をかけたコンセプトで開発したとしている。
しかし、事業的には赤字が続いた。大きな要因は、人工芝スキー場だった。施設の運営・維持に電気や水を多く使い、予想以上に固定費が膨らんだうえ、人工芝の修繕費も負担が重かった。そこで、2013年10月に、人工芝スキー場は廃止した。
人工芝スキー場の跡地に加え、農園や畜舎も利用しなくなっており、これらの空き地となった約4万2000m2の土地の有効活用が課題となった。
市街地から離れた山の上でも事業性が見込めること、敷地内の他のレジャー施設の運営が続いている中でも稼働できること、など複数の条件を満たせる施設は一般的な遊休地の活用に比べて限られる。太陽光発電は、この両方の条件に合い、理想的だった。
しかも、固定価格買取制度(FIT)の施行によって、太陽光発電所の導入は全国各地で進んでいた。このため、土地の賃貸による太陽光発電を行う事業者を募集することにした。応募は4社あり、ウエストエネルギーソリューション(東京都新宿区)の提案を選んだ。
延岡市の北方総合支所によると、公募にあたって、応募した事業者が主体で取り組むこ
とを条件とした。応募内容の評価では、賃料のほか、企画・設計・管理運営・地域貢献などの提案内容も加味した。ウエストグループが提示した賃料は年間で376万9674円だった。
花柄にパネルを配置するといった来場者に対する見栄えなどは、応募の条件や評価項目に含んでいない。ウエストグループ独自の提案だったという。
ウエストグループでは、「ETOランドのコンセプトである、来場者が非日常性を味わえる場所で、自然あふれるオアシスという環境に近づける設計を心がけた」と理由を説明する。
また、北方総合支所では、ウエストグループの示した賃料は、立地を考えると高額の提案だったという。ウエストの江頭常務によると、「賃料という新たな収入が加わることで、ETOランドをなんとか残したいという市の思いに応えられるような提案をした」という。
ETOランド内には、もともと風力発電設備があった(図4)。風と日射の両方に恵まれた場所で、再エネの適地として、来場者に再エネを啓蒙する展示場も設けていた。
この風車は出力750kWで、1998年に導入され、当時は日本一の規模だったという。高さ50m、羽25mと大きく、ETOランドの目玉の一つだった。
しかし、山の上にあることから、落雷の被害を毎年のように受けた。落雷によってブレートが壊れるといった損傷が続き、損害保険を適用して修理することを繰り返していた。
2012年夏に落雷で損傷した際、今後は保険を適用できなくなることがわかった。その修繕費が約4000万円と高額だったこと、また、修繕したとしてもまた落雷で損傷することが予想されたことから、廃止することを決めた。現在は撤去され、コンクリート基礎のみが残っている(図5)。
主に風力発電を啓蒙するための展示場の内容は、現在はメガソーラーのものに変わっている。メガソーラーの稼働当初は、ウエストグループの担当者が出向いて来場者に説明していた。現在では、ETOランドの職員が説明しているという。
この点は、ウエストグループがこだわった地域貢献の一つという。メガソーラーがあることで、ETOランドの雇用が増えること、また、現地の職員が説明できることも、少しでも地域に根ざしたエネルギーに近づくことの一つとして重視していた。
花柄の配置の発端は、北向き斜面に
花柄に見える太陽光パネルの配置は、どのように構想されたのだろうか。ウエストグループによると、レジャー施設内に立地するという理由だけでなく、ETOランドにおける太陽光発電所が、北向きの斜面に立地するという事業上の障壁が発端になったという。
北向きの斜面に、太陽光パネルを南向きに傾けて並べると、アレイ(太陽光パネルを架台に固定する単位)は南から北に下りながら並ぶ。このため、平地に設置する場合に比べて、後ろの列にかかる影が長くなる。アレイ間の間隔を広く確保する必要があり、同じ面積内に設置できるパネルの枚数が少なくなる。これが北向き斜面で、太陽光発電所の事業性が低くなる理由となる。
ウエストグループでは、ETOランドの太陽光発電所の公募の前に、ドイツの企業から情報を得る機会があった。
大規模な太陽光発電で先行したドイツでは、土地の形状を生かしながら地なりに太陽光パネルを設置したり、設置角を細かく変えたりしながら発電量を最大化する設計が進んでいた。通常は不利と考えられるような北向き立地でも、事業性を満たせる太陽光発電所開発の手法をこの時に知ったという。
欧州では、地形を大きく変えずに元々の景観にも配慮し、かつ、造成コストを抑えながら、発電量を一定以上に確保できている場合が多い。
北向き斜面が用地となるETOランドの太陽光発電所では、こうした知見を得ていたので、不利な条件の中でも事業化の障壁を下げることができると考えた(図6)。
花柄に見える太陽光パネルの配置は、こうした感性に優れた女性の担当者が設計したという。
来場者が見て楽しいだけでなく、発電上の利点もあるとしている。一見、太陽光パネルは、地面に平行に配置しているように思えるが、花びらのように細かく分けられているひとつ一つのアレイごとに、設置角を細かく変えている(図7)。
これは、ひまわりが花全体を太陽の方に向けているのと同じような効果を狙ったものという。北向き斜面における設置という制約の中で、1日の中で太陽光の取り込みをより多くできると考えた。
同社では、平地に真南向きというような、理想的な設置を実現できない場合でも、土地を有効に使いながら、発電量の落ち幅の少ないメガソーラーの開発は可能と考えている。とくに、九州の恵まれた日射の条件があれば、理想的な設置にこだわらなくても事業として十分に成立できるとしている。
年間発電量は、ウエストグループが開発してきた一般的な条件の同規模の太陽光発電所に比べて、約71%にとどまることを見込んで事業計画を立てている。発電開始から3年間以上が過ぎ、発電量はほぼ計画通りに推移している。
アルミフレームもカラフルに
一つの花のように見えるアレイ群ごとに、太陽光パネルのアルミフレームの色も異なる。明るい緑や黄色、赤といったように、アレイ群ごとに塗り分けて、花のイメージをより高めた(図8)。
これは、太陽光発電事業としてみると、発電に寄与しないどころか、初期投資が増す、稼働後に溶けてカバーガラス上に流れ出た場合には、発電量を下げる原因になりかねないなど、マイナスにも作用する。ウエストグループ内でも、こうした懸念が示されたという。
しかし、来場者が見て楽しい、地元に愛される発電所になるという目的を徹底するために、最終的に採用を決定した。江頭常務は、「事業性を最大化するような太陽光発電所の開発は重要だが、見て楽しい、開発したわれわれも気持ちの良くなるような発電所も、再エネの導入拡大には必要」と考えている。
EPC(設計・調達・施工)サービスは自社で担い、太陽光パネルはウエストホールディングスの自社ブランド品を採用していることも、アフミフレームをカラフルに塗装することができた要因の一つと言えるだろう。
EPCサービスやパネルが外部企業の場合、塗装が溶け出ることによる発電量の低下の原因となることを恐れて、保証を制約する可能性がある。
O&M(運用・保守)も、グループ会社のウエストO&M(広島市西区)が担当している。除草の作業は、地域貢献の一環として、同社が地元に依頼し
ている。
パワーコンディショナー(PCS)は、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した。
メガソーラーは、高圧配電線に連系する二つの発電所による構成となっている。太陽光パネル出力がそれぞれ1.568MWと0.532MWで合計2.1MW、PCSの定格出力は1.5MWと0.5MWで合計2.0MWとなっている。
2018年4月13日 カテゴリー: 未分類